子どもの高次脳機能障害で受け取れる「逸失利益」
未成年のお子様が交通事故で高次脳機能障害となってしまったとき、高額になりやすい一方、適切な金額を受け取れないおそれも高い損害賠償項目が「逸失利益」です。
逸失利益は、障害による将来の減収を補うものです。
しかし、お子様はまだ働いておらず、また、高次脳機能障害の症状は客観的に明らかにしづらいですから、不確定要素が付きまといます。
ここでは、逸失利益など後遺障害の損害賠償金を手に入れるために必要な後遺障害等級認定、及びその後の示談交渉を乗り越えるための基本情報とポイントを説明します。
このコラムの目次
1.子どもの逸失利益の考え方
(1) 逸失利益とは
逸失利益とは、後遺症のせいで将来仕事や家事に支障が生じるために手に入れられなくなったお金です。
逸失利益の金額は、以下の計算式で算出されます(なお、利息を考慮して多少減額されます)。
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間」
①基礎収入
一般的に、基礎収入は事故前の年収です。
②労働能力喪失率
労働能力喪失率は、収入を得るための能力である「労働能力」が後遺症により失われた程度を意味します。
③労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、後遺障害のせいで収入が低下する期間です。たいていは症状がこれ以上治らなくなり後遺症が残った「症状固定」のときから67歳までの年数です。
さて、お子様はまだ働いていません。年収はありませんし現実に仕事に出ている悪影響を説明することもできません。
しかし、逸失利益は将来の分を一括請求することが原則ですから、様々な事情から計算項目を推測することになります。
たとえば、収入は事故時の平均賃金が原則です。男女差別とならないよう、お子様の性別にかかわらず、男女全体の平均をとります。
労働能力喪失期間は、「18歳、または、大学卒業の見込があると言えれば大学卒業時の年齢」から57歳までです。
(2) 子どもは労働能力喪失率が大きな問題に
子どもの逸失利益、特に後遺障害が高次脳機能障害のケースでは、労働能力喪失率が最大の問題となります。
労働能力喪失率は、症状の重さに応じて認定される後遺障害の等級に応じて目安が決まっています。
しかし、高次脳機能障害、特に被害者様が子どもである場合、症状の内容や程度を適切に評価してもらうことはとても難しいのです。
さらに、認定を受けた後の示談や裁判でも、労働能力喪失率は職業・年齢・性別・後遺症の部位や程度・事故前後の仕事ぶりの様子など、症状以外の様々な事情から調整を受けます。
収入や仕事に影響する事情をもとに総合的に判断されるのです。
お子様はまだ働いていないのですから職業が分かりませんし、事故前後の仕事ぶりもわかりません。
そこで、現在のお子様の症状の様子をできる限り具体的に記録に残し、勉学・行動力・コミュニケーション能力(人間関係)など、将来に生じうる悪影響を広く推測できるようにしましょう。
2.症状を記録する際の注意点
高次脳機能障害の症状を具体的に報告することで、後遺障害の等級、ひいては労働能力喪失率が高くなりやすいです。
ところが、高次脳機能障害の症状は分かりにくく、特に被害者様が子どものケースでは、その症状の把握や説明はなおさら難しくなります。子どもの高次脳機能は成長途中だからです。
しかも、症状に気付くには、事故前のお子様をよく知っていること・事故後にお子様と生活空間を共にしていることが必要ですから、診断書など重要な書類を作成する医師は症状に気付きにくい傾向にあります。
そのため、家庭における症状を保護者が、学校における症状を担任の教師が、記録を積み重ねたうえで報告書としてまとめ上げなければいけません。
上記の勉学・行動力・人間関係に関する問題行動について、以下の点に注意して記録するようにしてください。
(1) 周囲の状況を含めた「エピソード」
高次脳機能障害の症状は、能力の低下がお子様をとりまく生活環境・人間関係など周囲の事情の中で不適応となって表れるものです。
ですので、問題行動そのものの事実を、問題が生じた時・場所や関係者など周囲の事情を具体的に書き込んだ物語、すなわちエピソードとして記録してください。
その個別のエピソードを積み重ね、最終的には、「日常生活状況報告書」と言う書類にまとめて認定機関に提出することになります。
なお、既定の書式はありますが、自由欄が少ないので別紙をつけて具体的な記載をしてください。
(2) 学校と連携する
子どもの高次脳機能障害の症状を報告するうえで、学校の協力は欠かせません。
家庭外・集団生活・将来のための勉強。学校という環境下で高次脳機能低下が引き起こした問題は、将来お子様が社会に出たときに生じる支障を推測するために大いに役に立ちます。
実際、後遺障害等級認定手続では、担任の教師が作成する「学校生活の状況報告」という書類の提出が求められています。
問題は、お子様の様子について、事故のときの担任・症状固定のときの担任、つまり、異なる二人の教師に報告書を作成してもらう可能性が高いことです。
子どもは高次脳機能障害が発達途中であるため、大人よりも症状固定まで長い時間がかかりやすく、その間に進級進学することがありえます。
このとき、症状固定時の担任は、事故前のお子様の様子を知りません。学年主任や校長などとも話し合うなど、将来の担任にお子様の症状を理解してもらう、事故前の担任から症状固定時の担任に詳しく説明してもらうなど、細やかな根回しが大切です。
3.後遺障害等級認定手続でつまずいたら弁護士へ相談を
子どもの高次脳機能障害には、ご両親すら気付かないほど分かりにくいことがあります。
その症状を認定機関に適切に報告するには、事故前と症状固定時で、日常生活や学校生活における被害者様の言動がどのようにどれだけ変わったのか、具体的で分かりやすい報告書を提出することが重要です。
しかし、学校の先生は忙しく、そもそも高次脳機能障害に対する理解が乏しいことも多いでしょう。
子どもはまだ高次脳機能が発達途中。成長するにつれもともとあった思春期・反抗期などの問題との区別もつきにくくなります。まだ働いていないのですから、将来の仕事に出る悪影響はあくまで推測することしかできません。
それでも、高次脳機能障害はお子様の人生に大きな悪影響を及ぼしかねないのです。
上手く医師や教師に説明することができない。
説明はしたけれど、後遺障害等級認定手続に必要な検査や報告書について理解してもらえない。
これからの手続の見通しが分からない。
そんなときはぜひ弁護士にご相談ください。
認定の申請は弁護士に依頼して資料を集める「被害者請求」を利用することで認定の可能性が上がります。
損害賠償金も、弁護士に依頼すれば「弁護士基準」と呼ばれる最も高い相場で請求できるようになるため、金額がより高額になることがあります。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。経験豊富な弁護士が、被害者の皆様をサポートいたします。
高次脳機能障害に苦しむ皆様のご来訪をお待ちしております。
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