下肢短縮障害の後遺障害等級認定手続
交通事故で足を骨折してしまったとき、骨折が治癒したものの足の骨が短くなって日常生活や仕事に支障が出てしまうことを「下肢の短縮障害」といいます(下肢とは足のことです)。
交通事故の後遺症について損害賠償請求をするには、後遺障害等級認定手続で後遺障害の認定を受けることがほぼ必須です。
そして、短縮障害としての認定を受けるには、少なくとも1センチメートル以上短くなっていることが必要です。
後遺障害の損害賠償金は症状の重さに応じて決まる「等級」により目安が決まっています。
短縮障害では1センチメートル、3センチメートル、5センチメートルの順に等級が上がりますから、数ミリのずれで数百万円もの損害賠償金を手に入れられなくなってしまうおそれがあります。
測定は、画像検査で正確に行う必要があるのです。
後遺障害等級認定を受けた後も油断は禁物です。加害者側の任意保険会社が、仕事や生活に大きな影響は出ないとして損害賠償金を払い渋ることがあります。
ここでは、下肢短縮障害の後遺障害等級認定の問題点と、適切な賠償金のためのポイントを解説します。
1.短縮障害の基本
まず短縮障害とは何か、目安としていくら損害賠償金が支払われる可能性があるのかなどについて簡単に説明します。
(1) 短縮障害とは
交通事故で脚の骨、たとえば太ももの大腿骨やすねの脛骨を骨折してしまったとき、骨がくっついて治ったように見えても何らかの後遺症が残ってしまうことがあります。
その一つが短縮障害です。
骨折が治っても元の長さより短くなってしまうことがあり、ケガをしなかった方の足と長さに違いが生じてしまって、体のバランスがとりづらくなってしまいます。
ケガをしたほうの足は「患側」、ケガをしなかった方の足は「健側」と呼ばれ、患側の足がどれだけ短くなったかで損害賠償金に違いが生じることがあります。
(2) 等級と損害賠償金の目安
ケガがこれ以上治らなくなった「症状固定」になっても後遺症が残っているとき、その後遺症が後遺障害の等級に当たると認定されると、治療費などに加えて後遺障害についても損害賠償金を請求できるようになります。
後遺障害の損害賠償金の内容や金額は被害者様の具体的事情により様々です。
もっとも、多くの場合は以下の二つが損害賠償金の多くを占めます。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害を負ってしまった精神的苦痛に対する慰謝料
- 逸失利益:後遺障害の悪影響により手に入れられなくなるだろう将来の収入の穴埋め
逸失利益は簡単に言うと、以下の式で計算されます。
被害者様の年収×後遺障害が収入を減らす割合(「労働能力喪失率」)×将来働くだろう年数(「労働能力喪失期間)
後遺障害等級認定手続が参考としている労働災害保険制度により、「後遺障害慰謝料の金額」「労働能力喪失率」の目安が、等級に応じて定められています。
なお、後遺障害慰謝料については自賠責保険会社からの支払いとは別に、弁護士に依頼したときの金額の目安もこれまでの裁判所の判断に基づいてまとめられています。
等級 | 自賠責からの後遺障害慰謝料 | 弁護士に依頼したときの後遺障害慰謝料 | 労働能力喪失率の目安 | |
---|---|---|---|---|
1下肢を5センチメートル以上短縮 | 8級 | 331万円 | 830万円 | 45% |
1下肢を3センチメートル以上短縮 | 10級 | 190万円 | 550万円 | 27% |
1下肢を1センチメートル以上短縮 | 13級 | 57万円 | 180万円 | 9% |
なお、上記の自賠責保険の後遺障害慰謝料の目安は、2020年4月1日以降のものです。それ以前の場合は金額が異なっていますのでご注意ください。
後遺障害等級認定を受けられたとしても、保険会社との示談交渉によっては適切な損害賠償を受けられないおそれがあります。
短縮障害になると立っているときに体のバランスがとりにくくなり、仕事や生活に悪影響が出ます。もっとも、その悪影響がどの程度になるかは、年齢や生活状況はもちろん、短縮した長さ・仕事内容や将来事情・足などの他の体の障害などによって被害者様ごとに大きな違いが生じます。
逆に言えば、保険会社としては被害者様に「あまり悪影響が生じないように見えること」を拡大解釈して、労働能力喪失率を低く見積もり、逸失利益を払い渋ることがあるのです。
遅くとも認定後には弁護士に相談・依頼して保険会社との交渉を任せましょう。
2.短縮した長さの測定
上記の表にあるとおり、3センチメートル「以上」短縮すれば10級ですが、届かなければ2.9センチメートルでも13級です。
もし短くなった長さが0.9センチメートルならば、そもそも後遺障害として認定されることもありません。後遺障害の損害賠償金は一切手に入らないのです。
そのため、足がどれだけ短くなったかを測定することには慎重になってください。
(1) どこからどこまでの長さ?
「下肢の短縮」を確認するとき足のどの部分を測ればよいのかは、制度上、明らかに定まっています。
上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)から下腿内果下端(かたいないかかたん)までの間です。
上前腸骨棘とは、骨盤の骨が最も大きく広がって足の筋肉とつながっているところ、下腿内果下端は足首の前側です。
(2) ロールレントゲン検査による測定
労災制度では上前腸骨棘と下腿内果下端の位置の体表面に印をつけたうえで、巻き尺で測るとされています。
とはいえ、これでは数ミリメートル単位で誤差が出てしまうおそれを排除できません。
一般に後遺障害の内容や程度を証明するには、画像検査がすぐれています。誰の目から見ても客観的に明らかに身体の状況を映し出せるからです。
下肢短縮では「ロールレントゲン」と言う測定方法が有効です。
ロールレントゲンならば、フィルムを細長くして足全体を一枚の画像に一気に写し出すことができます。
通常のレントゲン検査では、上前腸骨棘から下腿内果下端までの全体を一枚の画像に映し出すことはできません。
下肢の長さを正確に証明するには、単に画像検査をすればよいのではなく、ロールレントゲン検査をする必要があります。
医師に損害賠償請求の証拠として大切になると説明し、ロールレントゲン検査の実施をお願いしましょう。
3.まとめ
下肢の短縮障害は一見すると簡単に等級や損害賠償金が決まるようにも思えます。
しかし実際には、短縮の測定では特殊なレントゲン検査で客観的な画像検査結果を残しておかなければ損害賠償金額に大きな差が生じてしまうおそれがあるケースがあります。
なにより、逸失利益については保険会社が減額主張、下手をすれば支払い自体の拒否をするかもしれません。
逸失利益は巨額になりやすい損害賠償項目です。しかし、自賠責保険からの支払いには上限があり、後遺障害慰謝料が優先して支払われるために、逸失利益の大半は任意保険会社と交渉して示談金として引き出すことになるでしょう。
具体的事情により逸失利益は大きく減ってしまうおそれがあります。特に短縮障害は障害の内容程度や仕事との関係性から、保険会社が減額を迫りやすい後遺障害の一つとなっているのです。
保険会社は交通事故の損害賠償事件のプロです。
法律の専門家である弁護士に依頼して、保険会社との示談交渉を任せましょう。
保険会社から支払額の提示があったら、保険会社と合意する前に弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故による被害者の方の損害賠償請求をお手伝いしてまいりました。
ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
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