給与が差し押さえられたら自己破産で解除ができる?
「借金の返済が滞ってしまい、返済することもできないし自分ではどうしたら良いかわからないから、そのままにしてしまっている」という方はいらっしゃいませんか?
度重なる督促を無視していると、給与が差し押さえられてしまうことがあります。
給与が差し押さえられてしまうと、会社に借金の事実がバレてしまうだけではなく、自動的に手取りの給料が減額してしまいますので、日々の生活にも影響が出てきてしまいます。
そのため借金の返済ができなくなってしまい、督促状が送付されてきた時点で弁護士に相談することをオススメします。
今回は、実際に給与が差し押さえられてしまうのはどのような場合か、差し押さえはどのようにして解除することができるのか、具体的な対応をご紹介していきます。
このコラムの目次
1.給与の差し押さえ
まずは、給与の差し押さえとはどのような制度なのかを細かく解説していきます。
(1) 差し押さえとは?
差し押さえとは、借金の返済が長期間にわたって滞っている債務者に対して、その債務の債権者が裁判所を通じて行なう債権回収方法の1つです。
ここでの「借金」とは、キャッシングや、買い物などの支払いにおける分割払いだけではなく、住宅ローンや車のローン、奨学金の返済など多岐に渡ります。
毎月の返済を期日通りに行っていれば全く問題ないのですが、毎月の返済が遅れたり滞ったりした場合、通常、債権者は、まず書面での督促状を送付します。
書面や電話などによる度重なる督促を行なっても、債務者と何の進展も見られなかった場合、債権者は、債務名義(判決等)を取得した上で、強制執行という形で財産を差し押さえる(給与差し押さえの場合は、債務者の給料から債権を回収する)ことができます。
(2) 差し押さえの理由
給与をはじめとした債務者の財産が債権者に差し押さえられてしまうのは、返済の延滞が起こり、その後、債権者が手紙・電話により接触・交渉を試みているにも関わらず、何の進展もない場合です。
ただ、借金の返済を滞納してしまったら、それだけですぐに突然給与が差し押さえられるというわけではありません。
先月の返済分をまだ支払っていないから、もしかしたら今月・来月の給与が差し押さえられてしまうかもしれない、と心配な方は安心してください。
しかし、債権者からの手紙・電話などによる度重なる督促を無視すると、債権者は、債務名義取得⇒強制執行手続に方針をシフトし、財産を差し押さえてくる可能性が出てきてしまうので、無視は厳禁です。
どうしたらいいのか自分ではわからないという方は、できるだけ早い段階で弁護士に相談するようにしましょう。
(3) 差し押さえの金額
債務者の財産の差し押さえにおける差押の対象としては、一般的に、給与を差し押さえられることが多いです。
家や車などを所有している場合や、預貯金がある場合には、もちろんこれらも財産としてみなされますが、手続き上1番スムーズに返済に充てることができる給与から、まずは差し押さえられると思っていてください。
給与の差し押さえといっても、毎月の給料の全額が差し押さえてしまうわけではありません。
給与のうち差し押さえ可能な額は、原則として、給与の1/4までとされています。
ここでの給与とは、いわゆる手取り額を指し、手取り額とは、給料の総支給額から法定控除額(税金・社会保険料など)を差し引いた残額のことです。
ただし、月給(手取り額)が44万円以上である場合には、給与から33万円を差し引いた金額が、差し押さえ可能な金額となります。
例1:手取り額が40万円である場合の差し押さえ金額
40万円÷4=10万円例2:手取り額が50万円である場合の差し押さえ金額
50万円−33万円=17万円
なお、差し押さえされる給与の金額は、2名以上の債権者から給与差し押さえをかけられた場合でも変わりません。差し押さえ対象の給与を、差し押さえをかけた債権者で分け合うことになります。
2.差し押さえまでの流れ
給与が差し押さえられるまでの流れは、非常にシンプルなものです。
債権者が債務者へ度重なる電話や書面での督促を行なったにも関わらず、債権の回収ができなかった場合には、以下の流れで給与の差し押さえが実行されることとなります。
(1) 「支払督促」が届く
手紙や電話などの督促、内容証明郵便を無視していると、裁判所から「支払督促」というものが届きます。
これに対して2週間以内に異議申し立てをしないと、今度は「仮執行宣言付支払督促」が裁判所から送付されます。
仮執行宣言付支払督促は、「債務名義」の一種です。この債務名義を得ることで、債権者は債務者に強制執行を行うことができます。
なお、支払督促あるいは仮執行宣言付支払督促に異議を出すと、事件は通常訴訟に移行しますが、裁判所で和解が成立しない限り、最終的には、「判決」という別の債務名義を得た上で、(2)以下に進むことになります。
また、裁判所で行なう和解は、やはり「和解調書」あるいは「和解に代わる決定」という債務名義になるので、和解したものの、その後和解を不履行した場合には、その時点で、(2)以下へ進むことになります。
(2) 債権差押命令の申立て
債務名義を得た債権者は、裁判所に対し、「債権差押命令の申立て」を行ないます。
裁判所が債権者からの申立てに対して問題ないと判断した場合には、「債権差押命令」が発令されます。
給与差し押さえにおける債権差押命令とは、債権者の申立をうけた裁判所が、債務者の勤務先に対して、債務者に給与(の一部)を支払うな、と命令することを意味します。
(3) 差押命令正本の送付
「差押命令正本」は、債務者と勤務先に送付されます。この場合の勤務先は、手続的には「第三債務者」と呼ばれます。
よって、この正本が送付された時点で、借金の存在(差し押さえをかけた債権者に対する借金の存在及び金額)が、勤務先に知られることとなります。
通常、債務者による財産隠しを防ぐために、差し押さえの事実は、まず勤務先へ先に送付するようです。
裁判所の命令により勤務先に対し給与の差し押さえが実行された場合には、差押対象となった給与は債務者に支払われることはなく、差し押さえられます。
この差し押さえ対象となった金額は、最終的に債権者が取り立て、回収することとなります。
3.差し押さえの解除方法・自己破産
一度財産の差し押さえが実行されてしまうと、差し押さえを解除するのは簡単なことではありません。
給与の差し押さえをされてしまった時点で、債務者は「期限の利益」を失っていることとなります。
「期限の利益」とは「期限が到来するまでは債務の履行をしなくてよいという利益」のことを指し、本来期限の利益が失われた時点で一括返済をしなくてはなりません。
しかし毎月の分割払いでも借金の返済が滞ってしまった人に対して一括返済を要求するのは難しいため、債権を回収するための手段として、債権者は給与の差し押さえを行うのです。
そのため、給与の差し押さえを解除するには、残っている借金を一括返済しなくてはなりません。
しかし、借金の残額を一括で返済するのは現実的には難しい方がほとんどです。
そこで、残債一括弁済以外で差し押さえを解除する方法として、「自己破産」という制度があります。
自己破産には「管財事件」と「同時廃止」という2つの方法があります。
どちらの場合であっても、自己破産の申立てをした後に裁判所から「破産手続開始決定」を出してもらって初めて、給与の差し押さえを解除することが出来ます。
但し、管財事件と同時廃止では、債務者が現実に給与を満額受け取れるようになるタイミングが異なっています。
(1) 管財事件
管財事件の場合には、破産手続開始決定と同時に、給与の差し押さえは「失効」し、差し押さえが解除されます。「失効」とは、それまで係属していた差押事件そのものが無くなることを意味します。
このため、破産手続開始決定後は、給与差し押さえを受ける以前と同じように、給与を全額受け取れるようになります。
実務上は、管財人において、差し押さえ事件が係属する執行裁判所に対して、差し押さえ解除の上申を出す形で処理しています。
(2) 同時廃止
同時廃止の場合には、管財事件のように、破産手続開始決定と同時に給与の差し押さえが「失効」する訳ではなく、開始決定の時点では、差し押さえは「中止」という扱いになります。
「中止」というのは、「失効」と異なり、差し押さえ事件そのものはまだ係属していて、そのため、今後、差し押さえが再開されるのか、解除されるのかが、確定していない状態です。
同時廃止の場合は、管財事件のように分配が必要な財産がないため、破産手続開始決定と同時に破産手続が廃止決定することとなります。
しかし、免責が確定されるのはもっと先です(破産手続と免責手続は、法律上は別の手続であり、破産手続が廃止されても、免責手続は進行中です)。
そのため、このままだと、破産手続廃止から免責の確定までの間に、再度給与の差し押さえをされる可能性があります。
実際、現行の破産法が施行される以前には、免責手続の期間中の債権者による強制執行が認められていました。
そこで、債権者の生活を守るための方法として、現行の破産法は、「同時廃止」の場合は、破産手続開始決定と同時に差し押さえ手続を「中止」するというルールを導入しました。
ただし、この時点では、あくまでも差し押さえは「中止」されるにとどまり、その後の免責手続において免責が確定した時点で初めて、差し押さえは「失効」となります。
この場合、「中止」から「失効」までの間の差押対象の給与は、勤務先が内部にプールしている(あるいは供託所に預けている)ところ、そのプール分の給与も、債務者に纏めて支払われます。
逆に、免責の許可が得られなかった場合には、それまで「中止」していた給与の差し押さえが再開されることになり、この間に勤務先にプールされていた給与も、債権者が取り立てることになります(なお、管財事件で免責不許可になった場合は、開始決定の時点で、既に従前の差押手続は「失効」しているので、再び給与差し押さえをしたい債権者は、改めて申立の段階からやり直す必要があります)。
同時廃止事件では、破産手続開始決定から免責決定までにはおよそ2〜3ヶ月の期間を要し、その期間は、減額された給与しか受け取ることができません。
最終的に免責が決定したら、そこから給与が全額受け取れるようになる他、中止されていた期間中にプールされていた給与も受け取ることができますが、管財事件と比べると、給与が満額受け取れるようになる時期はどうしても遅くなってしまいます。
4.まとめ
今回は給与が差し押さえられるまでの流れと、差し押さえ解除の方法としての自己破産について確認しました。
給与が差し押さえられてしまうと、勤務先に借金がバレたり、生活費が減額してしまうだけではなく、今後の信用問題にも関わってきます。
借金の返済が難しくなってしまったら、大切な財産を差し押さえられる前に、まずは弁護士に相談することが大切です。
また、差し押さえ解除のための自己破産手続きは個人で行うと非常に煩雑な手続きが存在します。できる限り知識と経験の豊富な弁護士に相談するようにしましょう。
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